大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成10年(ネ)465号 判決 1999年7月15日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事著の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

三  仮執行の原状回復及び損害賠償の申立て

被控訴人は、控訴人に対し、三七四万二八九四円及びこれに対する平成一〇年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行の原状回復及び損害賠償の申立てに対する答弁

控訴人の申立てを棄却する。

第二  当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正等

1  原判決一九頁六行目の「精算の手続が」から同八行目の「別個の問題である」までを「代理人の行為の効果が被控訴人に帰属するからといって、保険料という金銭の所有権全部が当然に本人に移転するというのは飛躍である。保険契約の代理人として契約者から収受した金銭の所有権を移転するには、契約締結の代理行為とは別個に代理人と本人との間に引渡行為が必要である。」に改める。

2  同二二頁六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(四) 被控訴人は、銀行と預入行為者との間で預金契約が締結されたにすぎない時点では、銀行は預金者が誰であるかにつき特別の利害関係を有しない旨主張するが、これは借入申込みを伴わない定期預金の場合等に妥当しても、従前から貸借取引のある者が預金する場合には当てはまらない。本件において、矢野建設工業は、控訴人との間に従前から継続する貸借取引があるから、控訴人には預金者が誰であるかについて利害関係があり、保護されるべき利益がある。」

3  同二三頁三行目の「本件訴訟記録」の次に「(原審及び当番)」を加える。

二  仮執行の原状回復及び損害賠償の申立ての原因

平成一〇年一二月二一日、被控訴人は、原判決の仮執行宣言に基づく強制執行により、控訴人札幌西支店において、元本三四二万二九〇三円及びこれに対する平成九年六月二一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金内金三〇万四九六六円並びに申立費用二七七五円、執行費用一万二二五〇円の合計三七四万二八九四円の支払を受けた。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、民訴法二六〇条二項に基づき、三七四万二八九四円及びこれに対する仮執行の翌日である平成一〇年一二月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があるので認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二三頁八行目の「第一三号証」の次に「、乙第一号証の1ないし38、第二号証の1、2、第五号証」を、同行の「酒巻哲雄の証言」の次に「並びに弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

2  同二五頁五行目の「第一三号証、」の次に「乙第一号証の1ないし38、第二号証の1、2、」を加える。

3  同三三頁一〇行目の「定めている」を「定めており、募取法に定められていた収受保険料と自己財産との明確な区別、保険料の別途保管が明示された」に改める。

4  同三三頁末行の次に行を改めて次のとおり加える。

「10 保険契約が代理店を通じて締結された場合、保険会社が保険契約者に対して保険責任を負担することになるのは、代理店が保険契約者から保険料を領収したときである。したがって、被控訴人が矢野建設工業から保険料の引渡しを受けていない場合でも、被控訴人の保険責任が生ずることになる(弁論の全趣旨)。」

5  同三四頁六行目から七行目の「預金契約締結時」から同九行目の「考えられる。)」までを「預金契約締結自体については、預金者が何人であっても、格別の不利益はなく、このことは、特段の事情がない限り、締結された預金の種類、預金者と銀行等との取引の有無を問わないものと考えられ、」に改める。

6  同三五頁七行目から同四〇頁九行目までを次のとおり改める。

「 前記認定の事実に基づいて検討するに、<1>矢野建設工業は、被控訴人を代理して保険契約者から収受した保険料(以下「本件保険料」という。)を保管するに際して、他の金銭と明確に区別するために、本件保険料を専用の金庫ないし集金袋で保管しており、本件保険料を他の金銭と混同していたことはないこと、<2>本件預金は、矢野建設工業が右のように保管していた本件保険料が預け入れられたもの及びその利息であること、<3>矢野建設工業は、保険契約締結によって被控訴人から代理店手数料を受領して経済的な利益を得ており、本件保険料自体の帰属については、独自の実質的又は経済的な利益を有してはいないこと、<4>被控訴人は、矢野建設工業が本件保険料を領収することによって保険金支払の危険を負担することになるのであって、本件保険料と被控訴人が負担する保険責任とは対価関係にあり、本件保険料の帰属について被控訴人が実質的又は経済的な利益を有していることの諸点を考慮すると、本件保険料の所有権を有するのは、占有者ではない被控訴人であると認めるべき特段の事情(最高裁判所昭和三九年一月二四日第二小法廷判決、裁判集民事七一号三三一頁参照)が存するものと解する余地が十分にあるものと考えられ、仮にそうではないとしても、前記の諸点を勘案すると、本件預金の原資の出捐者は、本件保険料の帰属主体として実質的又は経済的な利益を有している被控訴人と認めるのが相当である。」

7  同五〇頁一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(四) 控訴人は、矢野建設工業は控訴人との間に従前から継続する貸借取引があるから、控訴人には預金者が誰であるかについて利害関係があり、保護されるべき利益がある旨主張する。

本件証拠上、矢野建設工業が本件預金口座を開設した昭和六一年六月一九日以前から、矢野建設工業と控訴人との貸借取引があったか否か明らかでないはないが、仮に、同日以前から右取引があったとすると、控訴人は本件預金があることを契機として取引関係に入ったものということはできず、また、本件預金口座の預金は、被控訴人に対する支払までの間の保管を前提とするもので、毎月二〇日ころには出金が予定されており、一定額以上の金銭が常に預金されているわけではないのであって、本件預金口座が存在したことの故に貸借取引が継続されたと認めることもできない。すなわち、控訴人主張の貸借取引と本件預金口座の預金とは、取引ないし信用上、格別直接的な関連性を有するものとは認められないのであって、控訴人に預金者が誰であるかについての利害関係や保護されるべき利益があるとは認められないというべきである。

(五) その他控訴人が種々主張する点はいずれも理由がない。」

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年五月二〇日)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例